実際、テレビその他においてデータの示し方に倫理が欠けていることがあるのは事実で、図1と図2の対比のさせ方はなかなか素敵だと思う。
が、「プレゼンテーションにおいては見せるべきところを強調する」という基本ともろにバッティングする主張でもあるとは思う。
図2にしても、値は書いてあり、実際には伝えるべき情報は最低限表示されている。その上で変化を見せたいのだから強調しました、ということであれば、その強調が正しいものである限り何の問題もない。
むしろ、この強調している差異がそれほど重要なものでないことを示すべきなのではないか。
これも悪意を持って印象操作したわけではないのだろう。テレビではいちいち増えたとか減ったとか言わないと気が済まないのではないか?データをグラフで示すというのは、なにも変化があることを示すためだけじゃない。「変化がない」ことを示すことも立派な重要な情報であるはずだ。「横ばい」と言えばいいものをわざわざ拡大して無理に「増加している」だの言う様子は、NHKでさえ見かける。
こういうのは単純な手順で防止できる。目盛りは必ず示すこと。棒グラフでは原点を0とし、波線省略を使わない。これだけルール化して放送前にチェックするだけだ。放送業界はそんなことすらできないのか?
浩光氏が指摘できたのも防波堤があったからで、今回のはOKということになろう。
分野によって強調すべきところは違い、10%くらい(グラフで目に見えて違ってくる範囲という意味で)の差がないと意味がないこともあれば、1%に破滅的な意味を見出すべきデータもある。株価の少々の上下は50%レベルですらどうでもよい(とバフェットは言っている)が、円安が10%進行したらすっごいことになるんじゃないだろうか。Blue Geneより1%速いコンピュータを作ったら拍手喝采である。
全ての見せ方を、時間と表示スペースの限られた媒体で行うわけには行かない。省略のない図と、重要なポイントに焦点を当てた図を並列にすれば、今度は理解する側にかかる負担が大きくなる。そして、何が言いたいかを視聴者が理解する前に、番組の枠が終了してしまう。
伝えたいことに焦点を当てるのはプレゼンテーション作成としては当然のことで、時間がないときに重要度の低いものを切り落とすのも正しいことだ。これを「駄目」とすると、的はずれなデータの羅列を視聴者に強いることになり、最終的には何も伝えられない。
この件に関しては、パッと思いつく限りでは以下のように対処するくらいしか思いつかない。
- データに細工をしたことが分かる表記を省略しない
- 報道関係者は検証可能な生データをWebサイト等で提供すること
前者は浩光氏の意見とも被るが、波線省略などは使ってもOKという意味でずっと緩い。一方、後者については情け容赦なくするべきだと思う。秘密の情報?知るか。
図2の何がまずいって省略を示す記号がまったくないことが一番まずいと思う。確かに目盛りがないのは不親切だとも思うが、スペースの都合上目盛りを入れるのは難しいかもしれず(横のスペースを食う)、グラフの頭の値で代用可能だ(今回の場合縦のスペースの方が余裕がある)。実際それで浩光氏は問題を発見できたのだ。
あともう一点
- 図表作成担当者に統計関連の勉強させて一定水準以上の技量がない限り作らせない
ところで図表を作成する技術者の資格ってあるんだろうか。意外に重要じゃないかと思う。誤差判定とか……いらないかーさすがに