真 もわ爛漫

しゃーら、しゃーらしゃーら

破綻ではなく単に大きなリスクを負うというだけ

http://blog.miraclelinux.com/yume/2007/01/oss_77cc.html

いや、大筋は良い線だと思うのですが、今の時期にこの直線的な議論でいいのかなと……

商用ソフトウェアビジネスの常識で考えると自社で開発したものはなるべく隠して成果だけを得ようとするが、そのスタイルはバザールモデルでは間違いなく破綻する。

特に大企業ではうまくオープンソースとクローズドソースを組み合わせるというノウハウが確立されてきている気配があります。私が某大手でインターンをやったときも、オープンソースを使用しつつも特定のハードウェアのドライバはクローズドソースという形態を取っていました。私はストールマンではないので何も言いませんでした。

「間違いなく破綻する」という言葉は非常に好感を持てますが、必ずしも実態を正確に捉えていません。

この主張をする際のポイントは、オープンソースをクローズドソフトと組み合わせる際のリスクが年々増大しているというところでしょう。そのリスクを負えるだけの管理を意識して行なえる会社なら、まだクローズドソースを用いてビジネス出来るし、一方そのリスクを負えるだけの管理が出来ないなら、ソフトは必然的にオープンにさせられるということです。

#例えば某ギャルゲー会社のように。

今市場で行なわれているのはオープンソースへの必然的な移行「ではない」というのが私の見立てです。

むしろ、オープンソースとクローズドソースの陣地取り合戦と言った方が適切です。

「全部オープンソース」という主義主張がいくら素晴らしくても(素晴らしいと思いますが)、実際にはクローズドソースの世界は必ず一定量残るでしょう。これはビジネスに機密保持という側面が常に残るからです。クローズドソースは、真似される可能性を排する上で、今でも有効な手段の一つです。

重要なのは「クローズドソースの占める一定領域」がどの範囲までになるか、でしょう。

オープンソースとクローズドソースの領域の争奪戦がいま進行中で、オープンソースの方が優勢になりつつあるがクローズドソースの必要性もまだある」という状況を適切に描き「これなら普通はオープンソース側に入るのが安定した領土獲得の道ですよ」と伝えるのがより適切な議論じゃないかと思います。

「間違いなく」という表現は少なくとも適切ではありません。なんどもぶり返して恐縮ですが。

ここで議論として誘導すべきだったのはむしろ以下のような流れだと考えます。

「ソフトウェア開発をクローズドにするのは可能ではあるが、並大抵の努力では難しい」という指摘を最初に行なう点ではほぼ同じですが、この理解を進めるためには「どのように難しいか」を具体的に叙述する努力が必要でしょう。オープンソースとして非常に有用なライブラリが多く提供されており、それを使う場合には必然的に使う側もオープンでなければならないといった基本的な点を指摘すれば十分かと思います。上の記事も、知識豊かな読者を対象としたものというよりは、世の中で浸透しつつある割とポピュラーな考え方の提供が主なわけですから、そのくらいのところから始まって問題はないかと思います。

次に、クローズドにするメリットが少ないことへの言及です。大企業が特別な秘密ハードウェアを自社で製作しているのならともかく、クローズドにするメリットを享受するのは、率直に言って難しいでしょう。そういう点をストレートに指摘すれば良いと思われます。多くのクローズドなソフトは、企業内の理由なしの慣行により行なわれている可能性が高いでしょうから、その部分で「筋の通った見方をするとオープンにした方が良いかも知れません」と冷静に指摘するわけです。上記の「有用なライブラリ」の件も併せて説得材料になるかと思います。

この二つの事情を背景として、クローズドに対する風当たりにどう向き合うか、現在のソフトウェア開発企業は決めなければならないわけです。その向き合い方を議論したときに「クローズにした方が良い」と判断するのであればクローズドでいいわけです、ビジネスとしては。ただ、なかなかクローズドな方が良い状況にはならないのがいまの御時世ですね、というのが我々の至る結論になります。そういう風に誘導してんだから。

#私は全部オープンにして欲しい派閥です。念のため。ただビジネスの話でそういう原理主義的な議論をするのはそういうのが有用であるときに限るべきだとも考えます。

これら上記の話を一通り述べた上で「普通に考えたらオープンにした方がメリットが大きいのですから、そうするべき」とまとめるのが穏当でしょう。

というより、このくらいのメリット/デメリット評価をしないと、既存のクローズドソース信奉者がオープンなソフトに目覚めるとはちょっと思えないのです。もちろんリスク評価なんてせずに適当にクローズドを採用し続ける会社も存在するでしょうが、陣営を地道に拡大するツールとしては、上記記事の著者のような断定口調ではなく平易かつ論理的に「オープンソースとクローズドソースの領域争い」の地図を見せる方が適当だというのが私の考えです。

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この記事の流れはなんというか、ずーっとまえからハッカーが信奉して、結局なかなか浸透しきれなかった考え方の焼き直しに過ぎない感じです。というか『UNIXという考え方』という本で紹介されている思想と筋が同じなんですね。何年前の本でしたっけ。

振り子を極端に振ってみることに価値はあるとはいえ、そろそろこの振り方から抜け出ても良い時期ではないでしょうか。

上記に引用した「間違いなく破綻する」みたいな表現は、ハッカーが自分の主義主張を高らかに宣言するときには非常に好感が持てて面白いものですが、今「ビジネスっぽく」議論する場合にはあまりにもナイーブな感じがします。実際破綻していない会社がまだどこそこにあるのです。つらそうですけどね。

ちなみにこの著者の主張「わたしはOSSビジネスではサポートサービスに競争優位性を見出す戦略が必然であると考える」という部分はまぁまぁ良い観点だと思います。ただ、例えばGoogleは、OSSを社内で利用していると言われつつも、サポートサービスとはほど遠いビジネスを行なっていますから、ソフトウェアビジネスで通用するパラダイムはこればかりではないという感じも普通にします。

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記事の一部分だけ抜き出してケチつけてるようなエントリになってしまったので自己弁護しときますが、私はクソなエントリにこんな指摘はしません。id:hyoshiok氏の日記もいつも読んでますし。

それにもう一点指摘すると、この私の主張はちょっと複雑すぎる感じもします。「大衆は分かり易い方に向かう。だとするならば、単純に「クローズドは悪だ」と言い切った方が人はついて来るだろう」そういう考え方も私の頭の中にモデルとして存在します。

あと書いたあとで気付きましたが「クローズドにするメリットが少ないことへの言及」と書きつつ、実際にはオープンにするデメリットも考えないとなりませんね。コードがuncontrollableになるなんてのがちょっと気になりました。